映画『ムーラン・ルージュ』のニコール・キッドマンは、ウエストのくびれた、手の込んだ作りの服で登場するが、それらはどれも、現場アシスタントたちに紐を引っ張ってもらいながら三〇分かかって着たものだそうだ。撮影に入る前にダンスの練習で肋骨を折っていたキッドマンは、特にきついコルセットを着せられて再び骨折してしまったという。「立っていたら、顔から血の気が引いていくみたいな感じになって、あれっ、何かおかしいなって思ったことを覚えているの」。かわいそうに、コルセットをつけたままインタビューに臨んだ際には、脇腹を押さえ、「笑えないのよ!」と言いながらクックッと噛み殺したような声を漏らしたそうだ。だが、それもしょせん、映画撮影時だけの話。昔の女性はどうして、そんな、骨が砕けるような衣類の苦痛を日常的に我慢できたのだろう?コルセットの登場は、一八世紀前半に遡る。当時、貴族女性がいわゆる「鯨のひげのボディス」というものを纏い始めたのだ。そう呼ばれたのは、初期のコルセットには文字通り鯨のひげでできているものが多かったからである。初め、それらは上流階級の女性しか使わなかったが、やがて、質素なものが中産・下層階級の女性へと広がっていった。一九世紀後半には、コルセット人気に対して医学界から大反撃が開始された。『ランセット』誌には、紐できつく縛り上げることの危険性を報じた記事が、一八六〇年代末から九〇年代初期まで、年間一本以上の割で掲載されている。当時、コルセットは結核からヒステリー、乳癌まであらゆる病気の原因とされていた。もっとも、現在では、肉体的副作用といってもせいぜい失神や背筋・腹筋の萎縮、肋骨の変形くらいだろうと言われているけれども。