私の勤めている病院には今、130名の常勤医がいるが、その出身地は沖縄から北海道まで様々である。彼らが病院を辞めて他府県に赴任すると必ず言ってよこすことがある。信州ほど医者が偉くないところはない、と。私の勤める病院は住民の必要としている医療を提供しようとして、常に住民の視点からものを考えて発展させてきたところである。だから、医者は住民と同じ視点に立つことを余儀なくされる。医者は偉くないのである。おまけに給料も安い。この環境に慣れた医者たちが外に出ると、まだまだ「お医者様」がふんぞり返っている日本の医療現場の現実に驚かされるのである。こんなことではいけないと最初は思うらしいのだが、朱に交わればなんとやらで、彼らもすぐにそんな医者に変身してしまうようであるが。患者と等身大の医者であろうとすること。これは言うは易く、行うは難い課題である。ベッドサイドにしゃがみ込んで、患者と同じ視線で話をしたからそれでいいというものではない。病む人の心を理解しようと努め、最後には自分も病んでしまうかも知れない危険と隣り合わせで診療に臨む覚悟が必要なのだ。その覚悟もできていないのに、自分の健全さを後生大事に守りながら、きれいごとを口にしたり書いたりする医者を、私は信じない。